![]() by touka61 カテゴリ
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やっと第一部完結しました!
なんだかいろいろツッコミどころ満載だったような…w ま、それはおいといて★ 今日のは第一部と第二部のつなぎ… という名の欲求解消です♪ こやつらをいちゃらぶさせたかっただけデス( ̄▽ ̄) 読まなくても第二部はなんの支障もなく読めます(笑) では… ****************************************************** ここは紅綾殿の一角にあるヒカルの自室。卓に向かっていたヒカルは筆を置き、息をついた。ヒカルの自室は二間続きで、廊下につながる一間とその奥に寝室がある。手前の室は務めをしたり客人を招き入れるための空間で、書を読み書きする卓と椅子、長いすや茶器の並んだ品の良い円卓などがある。余計なものを置きたがらないヒカルの性格上、装飾品の類はほとんどおいておらず、寝室に至っては寝台と小さな丸椅子があるのみである。 墨が乾くのを待って巻紙を棚に収める。下界のことを思い出すたびに書き付けている「日記」は断片的ながらも増えてきていた。ヒカルは再び椅子に戻ると卓に身を預ける。体がやけに火照って仕方がなかった。 ――シキはもう紅綾殿を出た頃か… 二人いる子のうち、一人に追放命令を出した。そのこと自体はさほどショックではなかったはずだが。不意に唇にシキの柔らかい唇の感触が蘇り、上気して顔が熱くなるのがわかった。振り払うように強く頭を振ったら今度はめまいが襲ってきた。 再びぐったりと卓に倒れ込む。 ――子はいつか親から離れていくもの。そうだ…私はシキの親ではないか…なぜシキはあのようなことを… 意識が朦朧として動く気にもなれず、思考も途切れがちになってきた。そのとき戸を軽く打つ音と共に「ヒカル、入ってもよろしいですか。」という紅網代の声が耳に入る。 返事をする間もなく戸が開かれ、黒い衣装に身を包んだ己の半身が姿を現す。問いかけならせめて応う間くらいくれてもいいだろう。卓に伏したままぼんやりとそんなことを考える。 「先程の賭のことですが」 そう言いながら近づく紅網代は動こうともしない主を見て一度口を噤んだ。 「…ヒカル?ご気分でも優れないのですか?」 眼だけ動かして紅網代を見上げるが依然として体は動かず、鉛玉でも飲んだようだった。 「失礼。」 首元に形の良い指が当てられる。ひんやりと心地よかった。そういえば初めて会った時もこうして当てられた紅網代の手の心地よさに安らいだものだった。 「少し熱がおありのようですね…横におなりになった方がよい。」 膝の下に腕が差し込まれ、ひょいと抱き上げられる。 「接吻程度で上気なさるとは、意外と初(うい)お方なんですね。」 からかうように言うその声には心配している風など微塵も見られなかった。この野郎と思いつつも体が言うことをきかず、小さく「うるさい」というに終わる。固い胸板に耳をあてると確かに鼓動が感じられた。仗とは、道具である。しかし自分にとっては血の通った、半身である。そのことに気づいたのはここに来る前、下界から桃源へ行こうと心に決めたときだった。 あれから幾年月が過ぎ、いくつもの別れと出会いがヒカルの前を通り過ぎる中、紅網代だけが変わらず側に在る。 ヒカルの体が寝台に触れたとき、紅網代の衣を掴むヒカルの手に力が込められた。 「ヒカル…?」 主の体を横たえようとして思わぬ抵抗を受けた紅網代は一瞬惑いをみせたがすぐにヒカルを抱え直し、寝台に腰掛けた。体の小さいヒカルは長身で手足の長い紅網代の中にすっぽりと収まる。そんなヒカルをあやすように抱く紅網代。我が子たちにはとてもではないが見せられない風景だ。 「どうなさいました?今日はやけに素直ですね。」 「…熱のせいだ。」 弱気になっているということがばれるのもくやしいので一応そう答えてみるが、この男はそんなこと百も承知でわざと問うているのだろう。そういう男だ。 「ふむ…ではそういうことにしておきましょう。」 ヒカルを抱く腕に力が入った。遠のいていく意識の中で、しっかりと抱えられている心地よさに身を委ねる。紅網代は基本的に何を考えているのかわからず人の心を見透かしたような底知れなさがある、実に腹の立つ男ではあるが、紛れもなく自分の半身で、唯一ヒカルが隙を見せることのできる相手だった。何がどう変わっても自分を抱くこの腕だけは変わらないだろう。そんなことを考えている間にヒカルは眠りに落ちた。 腕の中で静かな寝息が聞こえるのを確認してから改めてこの小さな主を抱く腕に力を込める。この少女に出会うまで、どれほど苦しんだだろう。主がいなければ生きてはいけない仗が、たった一人でこの桃源に生まれた。幾日も幾月も、もがき苦しみ、いない主を求めた。ふと過日のヒカルの声が耳の奥で響く。ヒカルがこの地で初めて下した命。 『何があってもお前だけは私の側に在れ』 「仰せのままに…必ず。」 子を一人失った我が主に静かに誓いを立てる。 ****************************************************** とゆーわけで(どういうわけだ)第二部はヒカルの過去編でございます。 (いつになるかわからんけど)乞うご期待!
新入社員らしく研修の嵐で、今日ようやく報告書提出までこぎつけました・・・
おかげで最終話だけ出し惜しみみたいになってしまいましたが、いよいよ第一部最終話です。 この後は未定ですが、第二部へのつなぎの話を入れて、またちょっとお休みしようかな~と; ともかく祝★第一部完結! *************************************************************** 一人で歩けば迷いそうな桃の林を抜け、暗く長い洞窟を通り、再び日の光を浴びたとき、そこはもう宗次郎の住む世界だった。 宗次郎は一歩真夏の森に足を踏み入れて後ろを振り返った。 異世界に住まう友が二人、洞の入り口に立っている。宗次郎は着ていた袍を手にしたまま笑いかけた。 「コレ、もらってくな。いいだろ?」 「ああ。…」 セトはふと口元に笑みを浮かべ、またすぐに 「一つ聞いてもいいか。」 と平生の表情に戻した。 「宗次郎は猊下のことを知っていたのか。確かに猊下はもともと下界にいた方なんだ。」 この言葉を聞いて宗次郎の顔が明るくなる。蝉のうるさい声も微笑ましく思えてきた。そして 「そうか、やっぱり人違いじゃなかったか。荻野とは3年くらい前に知り合って二言三言しゃべったくらいなんだ。」 とだけ答えた。まさか本当のことを言えるわけもない。そして相手にさらなる追求をさせる余裕も与えなかった。 「そういやセトとシキは最後に何言ってたんだ。」 この言葉に村雨築がくすりと笑む。彼女には聞こえていたみたいだ。セトはそっぽを向いたまましゃべろうとしない。その白い頬に赤みが差していた。首をかしげる宗次郎に一歩、村雨築が近づく。そっと耳打ちした言葉に宗次郎の口角もあがった。 へぇ~と口元を引き上げて言う宗次郎にセトは背を向ける。 「もういい。帰るぞ、村雨築。」 余程照れくさいらしい。村雨築は笑みを浮かべたまま、それじゃあと洞に戻る。 「また、会えるかな。」 ふたつの背にかけたこの問いに片方が背で答えた。 「死んだらな。」 言葉の後に向けられた顔は晴れやかだった。確かに、と笑みを返す宗次郎の前で二つの陰は寄り添いながら闇に消えていく。 我ながら驚くほどあっさりした別れだった。 宗次郎も洞に背を向け、歩き出す。こういう方が後腐れがなくていい。 少し歩いたところで見覚えのある滝が見えた。今行ってもきっとあの世界へはたどりつけないだろう。それはそれでいい。あるんだということを心に留めておけば。 宗次郎は右手に持った弓を握りしめた。セトや村雨築、シキには負けていられない。己の人生を生きなければ。歯車を、回さなければ。 軽快に坂を下っていった足が止まり、ふと後ろを見上げる。 元来た道はわからなかったがこの向こうに、月の向こうに彼らがいると思えるだけで良かった。 宗次郎は前を向き、町へと入っていく。 『セト、僕は君と兄弟であることは放棄できそうにない。』
ちゅーしちゃったぃ!Σ( ̄▽ ̄;)
↑書いた本人が一番驚いている 確実にシキは攻めですな(笑) 終盤にさしかかってきました。 なんとかまとまってる…ハズ…! ********************************************************* 誰もが茫然としている中、シキはゆっくりと唇を離す。ヒカルに向けられた穏やかな微笑はしかし瞬く間に彼女の眼前から消えた。 視界を埋めた黒い陰は風を起こし、ヒカルの髪を揺らす。ゴッという鈍い音だけが彼女の耳に入った。 シキを引きはがした黒い陰は痛む拳を握ったまま穏やかならぬ様子で言う。 「仗が道具を使わないことに感謝することです。私が仗でなければあなたを刺し殺すところでした。」 他の三者は未だに何が起こっているのか理解しきれず、唖然とするのみである。 イテテテ…と頬を押さえるシキはそれでも笑んでいた。 「相変わらず紅網代は容赦ないなぁ。」 そう言って数歩下がり、ヒカルに向かって片膝をつく。 「猊下、僕は恐れ多くも神聖なるあなたを汚しました。この紅綾殿からの追放命令を。」 そう言って村雨築、セト、と順に視線を廻らせ 「追放命令を頂く以上、僕は羲皇となる資格も返上致します。」 と言い放つ。「それは…」と口を開いたのはヒカル。 「天狗であることを放棄する、ということか?」 先ほどの出来事に頭はパニック状態だったが、気丈にもしっかりシキを見据えている。 「そうです。」 はっきりと、ためらいなくその口は言った。 「僕は村雨築の主たることを永久に放棄します。ご命令を。」 その瞳に曇はなく、長年付き合ってきた中で一番清々しい顔をしている、と紅網代でさえ思った。むしろセトや村雨築の方が動揺し「そんな…」と口の中でつぶやいている。 ヒカルはややあってから唇を動かした。 「命ずる。」 「猊下…!」 セトの声はヒカルには届かない。 「そのほうに紅綾殿での居住および仗の所持を禁ずる。また、羲皇継承の権を永久に剥奪する。」 村雨築も不安そうにシキとヒカルを見ていた。ただ一人、シキだけが何にも動じずそこにいる。 「謹んで…承ります。」 深く頭を垂れたシキ。セトも村雨築も宗次郎も釈然としないような、惑いの表情を見せつつ、それでも何も言えずにいた。誰にも覆せない、追放命令。居心地の悪い沈黙が広がる。 ゆっくりと面を上げるシキ。全てが彼の思惑のまま進んでいるように見えた。 「が。」 広間を包む沈黙を破ったのは桃源の主。誰もがハッと若き主の顔を見やる。ヒカルはその場にいる全ての者の視線を受けながら、それでも先程と一寸違わぬ声音で続けた。 「客人としてなら迎え入れることを約束しよう。」 一瞬の間を置いて村雨築の口元がほころびを見せる。 「…猊下…!」 それはセト、宗次郎も同じ事で安心したような笑みをうかべた。 「この件については以上である。」 そう言ってきびすを返し、あとは知らないというように退室していった。また紅網代もくつくつと笑いを噛みしめつつヒカルに続く。 突然放り出される形となったシキは豆鉄砲を食らったような表情をしていたがまもなく息をついて肩をすくめてみせた。 そしてすっと立ち上がり後ろを向いたそのとき、セトと眼があった。 「シキ…」 その深青の瞳が互いをうつしだす。 「結局お前は何がしたかったんだ。」 少し離れたところで宗次郎も見守っていた。「なにって…」口唇で笑みを作りながらシキは足下に座り込んだままの村雨築に手を伸ばす。その細い腕をつかみ、ぐいと引き上げる。村雨築は驚いたようにシキを見上げ、セトもやや眉を寄せるのみだ。 村雨築の肩を抱くように腕をまわし 「こういうことだよ。」 と、そっとセトの方へ押しやる。一歩、二歩進んで村雨築の体がセトに触れた。 「僕はずっと己の求めているものをはき違えていた。確かに村雨築は僕の半身だ。 けれど君が求めているほど、彼女を求めてはいない。彼女じゃなった。」 宗次郎には本能的に何かを求めるという感覚がわからなかった。そう言う意味で蚊帳の外にいるような、そんな心地がしていた。しかしこの言葉を聞いたとき、くやしいことにシキが一番身近に感じられた。 シキはそのまま何も言わない二人の横を通り抜けようとする。セトとシキが並んだときシキの歩が一瞬止まり、唇が小さく動いた。 宗次郎の耳には届かなかったが二人の間に今までにない穏やかな空気が流れるのがわかった。 そうして再びシキの足が外へと進む。その足取りは静かで、軽かった。 ゆっくり宗次郎の横を通り過ぎる。まるでそこに誰もいないかのように。 所詮は余所者、と諦観のこもった息を吐いたとき、背に声がかかった。 「お前の存在は、とんだ誤算だったよ。」 思わず振り返った宗次郎の眼に、シキの縹色の背が映る。 「お前は僕以上に僕の心が見えていたような気がする。」 その声は徐々に遠ざかっていく。たまらずに宗次郎は声をかけた。 「お前…っ!」 どうしても確認したいことがあった。 「お前…荻野…ヒカルのこと、好きなのか?」 シキの歩みが止まった。是とも非とも答えぬ背。一瞬の間により作り出される空白の時。やがてシキの口元に笑みが戻った。初めてこの下界からの来訪者を直視する。 「ヒトとは不思議な生き物だな。」 怪訝そうに眉を寄せる宗次郎に背を向け、また一歩踏み出す。そして広間の出口に手をかけ、そこで何かを思い出したように 「セト。」 この声と、荒く布の擦れる音が混じる。乱暴に脱ぎ捨てられたのは次代羲皇の証である薄縹の袍。 「猊下…ヒカルに返しておいてくれ。」 そう言うが早い、すいと外へ体を滑らせていった。宗次郎はただ、主を失った袍を見つめていた。
最近雨ばかりでチャリ通できず、萎えまくっています…
さて、あと残すところ3回です。 長かった・・・ ********************************************************** 宗次郎に覆い被さるようにして現れた彼はまだ眉間にしわを寄せていたが呼吸も足取りもしっかりしていた。先ほどまで宗次郎が手をかけていた柱に手をかけ、やや俯き加減で、それでも見るべきものは見据えている。 「セト、お前傷は大丈夫なのか。」 血まみれの友を気遣う宗次郎。セトの元から離れたとき、彼の意識は戻っていなかった。ただ苦しげに村雨築を呼ばうセトを見て、宗次郎は駆けだしたのだった。宗次郎の問いかけにセトは答えない。 「…セト?」 気がつけばセトの呼吸は穏やかになっていた。 「その問いは私にでなく…シキへ向けて発せられるべきだろう。」 静かに言うセトの真意がわかるのはおそらくシキのみだろう。シキは己の手が震えるのを押さえられなかった。頭は今我が身の置かれている状況を理解するのに精一杯だった。そしてセトの言葉は容赦なくシキの思考を阻んでいく。 「シキ、お前は今最も愛しむべき村雨築を以て、最も敬い慕うべき猊下に刃を向けている。わかるか?」 少しずつ、声が近くなっていっているのに気づく余裕などなかった。 「その傷はお前がその身に課した罰なのか。」 一歩。また一歩。セトとシキの距離が縮まっていく。 「お前にとっての村雨築は何だ。」 この声が予想以上に近くで響き、シキがはたと我に還ったときにはセトの手が村雨築を握る手にかけられていた。力を込めたのはセトの方が早かった。真下に向けてシキの手を押さえ込む。 切っ先がヒカルの首元から離れた刹那、ヒカルの眼前は黒く染まった。 ヒカルをかばうようにして立つ紅網代の前では両者が太刀を手にかけたまま睨み合っている。再び村雨築の慟哭ともいえる悲鳴が音もなく響いた。 カッと足下が爆ぜたのはこの時だ。二人は同時に足下を見やる。一人紅網代は遠くへ視線を投げかけている。 その先には二の矢を弓につがえた宗次郎がいた。 「お前ら二人とも、放せよ。」 引き絞ったままそう言う。二人の足下を狙った一の矢。動かない陰を見て宗次郎は二の矢を放つ。狙ったわけではなかった。そもそも的を狙えるほど勘は戻っていなかった。 しかし彼の放った矢は真っ直ぐシキに向かい、その腕を射た。 突如走った激痛に、シキは手指の力が抜けていくのを感じた。 ――まずい…! 床に落ちようとする村雨築に己のものでない手が伸びていく。その一角だけがスローモーションをかけたように鮮やかだった。 だがそのとき、太刀に向かって伸ばされた袖を何かがかすめていった。 「セトも、シキも、そいつに触るな。」 この言葉でそれが矢であることを知る。カランという乾いた音がやけに耳に響いた。そこにいる全ての者が少年を見ていた。ヒカルも紅網代の腕を軽く横に押さえ、半身を見せている。 静かに弓をおろした異邦人は真っ直ぐセトとシキを見、次いで村雨築へと視線を移した。一寸目を細める。 「俺にはここのシステムだとか、主だとか仗だとかはわかんねぇ。俺は余所者だから…けど!」 ヒカルは早川宗次郎の瞳の曇りのなさに羨望とも諦観ともいえる奇妙な気分を覚えた。 「女泣かす男なんて、最低だ。」 一時の沈黙。セトもシキも何も言えなかった。 「村雨築。」 いつになく穏やかな声で呼ぶのは宰鳳紅網代。 「ヒト型に戻りなさい。求められているのは貴女の言葉ですよ。」 静寂の中彼女のすすり泣きが聞こえているのは何人だろう。 朱い陰が気だるげに起き上がった。乱れた髪の間から見える瞳は露を含んでおり、両手を床につけたまま放心しているように見えた。 「村雨築。」 この声は羲皇ヒカル。紅網代の前に進み出で、へたり込んだ村雨築と目の高さを合わせる。 「今どちらかを選べというのは酷な話だ。だが今のままでは再びこのような事が起きかねない。セトもシキも苦しむ。何よりお前がつらい思いをする。今が選択の時としてしまうのがお前のためのような気はする。」 ここで一寸言を止め、今度は押し出すように言った。 「ただ私は今はセトにもシキにもお前が必要だと思っている。」 村雨築がゆっくりとヒカルに視線を向ける。 初めて何かに焦点が合った。ヒカルはそれを確認してから、ふ…と笑んだ。 村雨築の目に映ったそれは苦笑のように見える。果たしてヒカルは 「すまない、これでも私はあれらの親なものでな。」 と自嘲気味に視線を落とした。この時シキの口角がわずかにあがったが誰も気づかない。 村雨築はゆっくり言葉を紡ぐ。 「私は仗です。…主のモノである以上主を選ぶなどという恐れ多いことはできません。」 セトとシキを直視することは適わないようで、ヒカルと己の手元の間を視線がさまよっていた。 「セトとシキが私を必要としてくれているのなら、なおのこと…」 言葉をとぎらせる。再び静寂が広間に広がるが先ほどのような重さはなかった。重さはないが全てが止まってしまったような、そんな静けさだった。これでは何も進まない、と宗次郎が声を上げようとしたとき小さく 「しかし」 と村雨築が言った。 「思い上がりを許して頂けるなら…」 再び言葉を飲み込む彼女をヒカルが促す。 「セトが求めているのはヒトとしての私、シキが求めているのは仗としての私… そんな心地がします。」 今にも消え入りそうな村雨築の声。近くで押し殺したような笑いがあがった。 「それは正しい。村雨築の言うとおりですよ。」 皆の視線が声の主へと行く。くつくつと笑っていたシキは不意に腕の矢に手をかけ、一息に抜いた。顔を歪ませたのは一瞬で、矢を投げ捨てると再び口元に笑みを浮かべる。 「僕が求めていたのは仗。羲皇になりたかった。 けれど本当はそこじゃなかった。 僕は今、ようやく自分が何を求めていたか知りました。」 少し警戒したようにヒカルが立ち上がった。そのときシキの足が床を蹴り、もともとさほどなかった二人の距離が一気に縮まる。 シキの腕はヒカルを抱きすくめ、その形の良い口唇はヒカルのそれに合わせられていた。
今回は短め。
つなげたら恐ろしい長さになったから( ̄▽ ̄) しかも話の中ではおそらく五分とたっていません★ 引き続きおつきあいくださいませ。 ******************************************************** ヒカルは眼だけ動かして声の主を見やった。右手に弓を持った少年は柱に手をかけたまま再び、今度は噛みしめるように言う。 「違うんだ、村雨築。」 ヒカルは伺うようにシキをそっと見るがシキは表情もなく太刀を向けたままである。 「セトは死んでいない。」 シキの表情が変わったのはこの時だった。太刀先は依然として動かさないがさっと顔の色を変えた。 宗次郎は入り口付近に止まったまま続ける。 「セトは生きてる。死んじゃいない。だから…」 ぐっと顔を上げたその表情はすがるような、懇願するようなヒト特有の顔。 「だから悲しむな。村雨築が悲しむとセトが苦しむ。」 ふとシキの頭に鳴り響いていたものが止んだ。 「殺し損ねたようだな。」 これはヒカルの言。シキはうつむいたまま、けれど切っ先だけは冷静にヒカルの首に向けている。彼の周りの空気だけが止まっていた。 庭の木々の間をすり抜けてきた風は寄り道とばかりに広間を滑っていく。場の空気に似合わぬ薫風はそれぞれの思惑を持って佇む者たちをからかうように撫でて、再び空へと還っていった。 一瞬のはずの空虚がやけに長く感じられた。 「それは…きっと違う。」 気を動かしたのはやはり桃源の外の人間だった。ヒカルはシキの後ろを見やる。宗次郎は一度ヒカルを見てから、シキの背に言葉を投げかける。 「殺せなかったんじゃないか。」 シキは動かない。 「手が…無意識にセトを殺すことを拒んだんじゃないか。」 思いの外宗次郎の舌はなめらかだった。心臓の音は耳元で鳴り響いていたが、端から見ればそんなことは判るはずもなく、宗次郎の突飛ともいえる発言は桃源の住み人を惑わせていく。 そしてそれを知ってか知らずか、宗次郎は続ける。 「双子の兄を殺すなんて、そんなことできるはずない。だって…」 再びヒカルは宗次郎の瞳にヒト臭さを見た。 「だって二人で生まれてきたんだろ?」 それは無性に懐かしく、愛しいものだった。改めて眼前の青年を見る。そこで初めてヒカルは眉を軽く寄せた。もう少し生きてもいい気がしてきた。 シキの肩が僅かに震える。 耳慣れた声が広間に響いたのは次の瞬間だった。 「引くんだ、シキ。そんな有様で何が得られるというんだ。」 「セト…!」
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